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学長ブログ

殻を破ること

2016.02.02

 就職面接において最近よく聞かれる質問に「学生時代の失敗体験から学んだこと」というのがある。失敗に注目するのはなぜだろう。

 大学教育学会のシンポジウムで大手企業の人事経験者が、入社試験で見るのはその人の人間性で、大学で何を学んだか(専門性)は一切顧慮しないと発言し、大学関係者がどよめいたことがある。文学部も経済学部も工学部も関係ないと言ったのである。

 企業が求めている人材像を一言で言えば「自ら選択し、考え、行動し、やりきる力」であり、最近の新入社員は「素直で協調性があり、真面目だが、受身で、考える習慣がなく、答えのない状況への不安感が強く、失敗を極度に恐れる」と表現した。

 人間は何も知らず、何も分からず生まれてくるのだから、人間に失敗は避けられない。むしろ人間は失敗から学ぶことで、自分を成長させるのである。自分の置かれる境遇が次々変われば、そのたびに失敗を重ね学習しなければならない。だが、失敗には多かれ少なかれ痛みが伴う。痛みは恐れや不安を引き起こし、避けたい気持ちが出てくる。失敗なくして成長できないが、失敗の痛みは避けたい、どうしたらいいか。

 成長をあきらめ、余計なことをせずに済む安楽な環境を見つけ引きこもるか。しかし現実にはそんな安楽の地は見つからない。

 そうならば、痛みに耐えられる力を徐々に身に付けていくかしかない。見落とされがちだが、私たちは誰しも痛みに向かう小さな芽を持っている。安楽なだけでは退屈と思う心、刺激を求める好奇心である。変わった物を見てみたい、変わった所へ行ってみたい、変わった事をしてみたい。そんな誰にも備わっている冒険心、子どもの自由な心を羽ばたかせるのである。そして思ってもいなかった事に出会い、自分を成長させるのである。冒険を重ねて自分に自信がついてくれば、大きな痛みを伴うかもしれない大きなチャレンジにも挑戦できていく。

 ドイツの教育学者ボルノウは、体験と経験の違いを痛みを伴うかどうかで分けた。体験は知っていることを実地で確かめることで、自分に大きな変化はない。経験はそれまでの自分の考え、やり方が通用しない事態に直面し、痛みを伴い自分の考え、やり方を改める。つまり自分がバージョンアップされる。経験豊かなプロとは、何度も自分をバージョンアップさせる経験を積んでおり、新たな事態にも有効に対処できる能力を備えるのである。

 自分のバージョンアップを目指して、小さな冒険に出よう。先の人事経験者は「成功の反対は失敗でなく、不作為である」と述べた。

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